柔軟性とは何か?の問いに対し、一つ出た答えが、『動きが柔らかいこと』。これを柔軟性の『柔』にあたる要素とするなら、もう一つの『軟』にあたる要素は、『肉体が軟らかいこと』でしょう。足が高く上がるとか、関節が180度開くなどの関節可動域や筋肉の伸展性にすぐれた状態です。

ヨーガやアーユルヴェーダといった身体文化を生んだ、悠久の地・インドの伝統武術『カラリパヤット』は、肉体の軟らかさを追求するのにうってつけの体系をそなえています。カラリパヤットの特徴のひとつである、鞭のようにしなる高い蹴り、その練習方法は攻撃バターンの反復練習というより、脚の振り上げ、振り下ろしの動作による体作りの要素が強く、7種類の基本の蹴りを練習することで股関節を活性化し、筋肉を鍛え、身体能力の基礎を養成していくといいます。カラリパヤットの基本中の基本といえばネルカルとばれる、足首と膝を伸ばして股関節から脚を振り上げる蹴りです。これをひたすらやります。

images

そして脚の訓練の次に行われるのが、動物のポーズによる訓練です。象、馬、ライオン、猪、蛇、鶏、猫、魚の8種類のポーズがあり、中でも基礎となるのが象と馬のポーズで、どちらも股関節を折り込んで、腰を低く落とした格好になります。元々カラリパヤットの動作は動物の動きに由来しています。常に全身を使って動く動物の動きに学び、その動作の本質を武術に取り入れているのです。

zo  uma

これらの訓練を行うことで、普段の生活の中、ほとんど使われないような部位の筋肉を含め、全身のあらゆる筋肉が、活発に働き、体が隅々まで鍛えられていくのです。またカラリパヤットではフィジカルトレーニングとともにオイルマッサージも重視されていて、練習前後に各自持参したオイルでセルフマッサージを行うのです。さらに上級者が行うアルマ治療では、健康な体を作る上で柔軟性を重視していて、アルマを刺激しつつ、関節の可動域を広げていくような施術が行われます。

このように基礎訓練から武器術、体術、アルマ、医療などへと繋がる体系は、日本や中国の武術を研究する上でも大いに参考になると思います。インドの伝統武術は、単なる戦闘技術には収まらず、医療や舞踊、宗教思想などさまざまな要素が重なり合う伝統文化となっていて、簡単には理解できない奥深さをもっているのです。

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

ピックアップ記事

  1. 2017-9-22

    リュックサックによる腰椎への圧縮軽減

    リュックサックはバッグとしての優れた役割もさることながら、腰椎への負荷軽減ギアとしても効果を発揮しま…
  2. 2017-6-15

    腋窩陥凹はハンモックのように

    肩甲上腕関節の関節包靱帯は複雑なコラーゲン線維の交わりあった束から構成され、それぞれ上・中・下の3つ…
  3. 2017-1-18

    筋力トレーニングの負荷設定について

    筋力トレーニングを行うに当たっては、目的を明確にし、その目的に応じたトレーニング条件を設定することが…
  4. 2016-12-1

    骨の連結

    骨の連結には骨と骨が線維性の結合組織によって結合される線維性の連結と、骨と骨が軟骨線維によって結合さ…
  5. 2016-9-6

    トレーニング効果の種類

    トレーニング刺激に対して身体を適応させていく過程がトレーニングであり、適応によって得られた変化がトレ…

FACEBOOKもチェック!

注目TOPIC

  1. 2015-4-15

    間脳の解剖 後編

    トルコ鞍という蝶形骨と後頭骨が縫合してできた骨の土台には下垂体が位置します。下垂体は他のさま…
  2. 2015-8-11

    筋持久力とエネルギー供給

    持久力とは、運動を持続できる能力のことで、疲労に対する抵抗力とも言えます。筋持久力を決定する…
  3. 2015-10-30

    ミオシンの運動メカニズム

    筋収縮のメカニズムは、1954年に提唱された滑走説が有力とされています。滑走説を簡単に説明す…
  4. 2015-2-11

    フレイルという概念

    人間は年齢を重ねるにつれて身体機能が落ちてきます。そしてそれをそのままにしておくとQOL、A…
  5. 2017-1-29

    筋線維の損傷と再生

    筋肉は筋トレで一度壊し、回復させると強くなると言われています。ただし、けがや壊れたというより…
ページ上部へ戻る