身体意識を磨く

みなさんは野口体操というものを知っていますか?

野口体操は、従来の筋力や体格で計れるパワーを重視する運動理論やストレッチで物理的な可動範囲を広げることを目的とした運動とは一線を画し、“力を抜く”ことで得られる身体感覚、滑らかな動きを重視した運動を提唱しています。それは、重力などに抵抗するための筋力を鍛えるよりも、むしろ力を抜いて身体を“動き”や“重さ”に任せることで無理なく力や素早さなどを最大限に引き出せるという考えのもとです。野口体操では、運動の効能よりも、運動を通じた自分自身の気づき、体内の感覚を研ぎ澄ますという視点が大切にされています。

体操という言葉は、体を操ると書きます。通常は爪先から頭の天辺まで、身体全てに意識を行き渡らせ、身体の各部分をコントロールするようにと考えてしまいます。しかし野口体操では、操るという意味が違います。自分で意識して身体の隅から隅まで動かそうというのではなく、自分の身体の中の美しい釣り合い、“彩なる釣り合い”が自分の内側に自然に顕れてくるようなあり方で、それを探るのが体操の基本的な考え方だと受け止めています。

つまり自分の身体の内側から「こんな動きがしてみたい。自然に体が動いてしまう。」という感覚、動きを重視し、その感覚や動きとの釣り合いをとって姿勢、行動に導いています。要は、形よりも中身だということです。質が大切だということは、逆に言えば形や動きを要求通りに行うだけでは、運動として十分ではないということです。

“力を抜いて楽にやる”ということ、それは安易であるというこではありません。力を抜いて身体の自由度を保ちつつ、重力と身体の釣り合いを求めて動くということは、筋力で簡単にできる動作も難しくてできない場合が多いです。力を抜いた状態で動きを生み出すためには、自分自身にある軸、骨格と重力の関係を上手く使うことが必要となります。

たとえば立った状態では、背骨が支えになって他の部分はできるだけ楽に力が抜けてくれる状態を目指していく、ただじっと立つだけでは重力や軸を感じることが難しいので、少し重心を前後左右に乗せかえて身体の状態を“分けて”いくと、足元から「軸」が通ってくるところが見つけられるといいます。自分の軸を知るということ、重力と骨格の関係を知覚するということが人間が立位姿勢をとる上で軸の意識が重視されていることがわかります。

昨今では、力を抜く動き、重力を生かした身体運動の重要性は、近代スポーツの世界でも注目され始めています。野口体操が示す身体観、そして哲学とも呼べる思想は、これからの時代さらに注目されるべき運動文化といえます。

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