「見て学べ」は必ずしも明快か

「百聞は一見にしかず」

人から何度も聞くよりも、一度自分の目で見たほうが確かであり、よく分かるという意味をもつ有名なことわざです。

これと似たような意味で、「見て学べ」や「目で見て盗め」というような言葉があります。

これらはスポーツやトレーニングといった世界でもよく聞く言葉ではないでしょうか。

もちろん、与えられた課題への解決法として「洞察」といった要素は非常に大切であると言えます。

しかし、それが必ずしも平等に答えを与えるものではないのかもしれません。

例えば、ドイツの心理学者ケーラーがチンパンジーを用いて行った実験は興味深いものと言えます。

ケーラーは研究室の天井にバナナを、それもチンパンジーがジャンプしても届かない高さに取り付けました。

そして、そこから数メートル離れたところに大きな箱を置きました。

するとある賢いチンパンジーが、その場面に遭遇した後、一度も躊躇することなく、箱をバナナの真下まで引きずり、その上に登って苦もなくバナナを取ったといいます。

他のチンパンジーがそこで起こっていることを見ていたのなら、新たにバナナが吊るされ、箱がセッティングされたとき、「模倣」が起こるであろうとケーラーは考えました。

しかしそのとき、研究室で起こっていたことといえば、そもそも賢いチンパンジーの行為に興味を示さなかったり、示していても箱を動かせなかったり、バナナの真下へ動かすことができなかったり、といった様子であったといいます。

これは、目で見たことを思い起こし、箱を動かす行為の重要性やバナナと箱の位置との関係性について理解することができなかったからだといいます。

つまり、賢いチンパンジーが目の前でやってみせたことを他のチンパンジーが繰り返すためには、その行為に十分な興味があり、自分が見たことを理解するに足る知能を有していることが前提であるということです。

これは我々にも一部当てはまるのではないでしょうか。

例えば、指導者とそれを受ける者の間の知能、ここで言えば、過去の経験や学習に基づく流動性知能といったところですが、これがかけ離れていれば、十分な理解が得られないかもしれません。

そのためにも、視覚的な情報だけでなく言語的・知識的な情報といったことも必要になると言えるでしょう。

そうしてこそ、お互いが同じビジョンを通して「見て学ぶ」ことが可能になるのではないかと思うのです。

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