アフォーダンスとカノニカルニューロン

随意的な動作は、中枢で生じた運動の意図が顕在化したものであり、「目的」はそれを達成するための筋道を決定します。

随意運動は反射的行動とは異なり、刺激によって反応が決まるわけではなく、そのきっかけをつくるにすぎません。

そのため、その刺激に反応するかもしれないし、しないかもしれないという構図が成り立ちます。

また、同じ刺激を与えても条件が違えば必要に応じて異なる反応をするかもしれません。

これはアメリカの心理学者J.J.ギブソンが提唱したアフォーダンスの概念と似ています。

ギブソンは視覚から知覚や認識についての研究を進めましたが、こうして作り上げた理論は今や運動、デザイン、建築などさまざまな領域で支持されています。

運動の世界では概念的に取り沙汰されてきましたが、近年の研究では神経生理学的にアフォーダンスの影響を受けた運動モデルが構築されています。

これは主に把持や操作といった行為についてのモデルです。

脳には特定の動作に関連するさまざまな領域があります。

その中で把持運動に関連しているのは前頭頂間溝野(AIP)という領域です。

このAIPは主に3つのクラスに分けられます。

1つは運動優位型ニューロンで明るいところ暗いところなど視覚に関係なく同程度に活動するニューロンです。

1つは視覚優位型ニューロンで明るいところでのみ活動します。

1つは視覚運動型ニューロンで明るいところ暗いところどちらでも活動しますが、明るいところのほうが強く活動します。

これらは物体を把持する際に活動しますが、3つのクラスのうち、視覚優位型ニューロンや視覚運動型ニューロンは、把持せずとも物体を見ただけでも活動することが分かっています。

また、運動前野腹側部の一部であるF5も把持や保持や操作に関わることが分かっています。

研究ではこのF5のニューロンのうちかなりの割合が物体を観察するだけで、その後物体を把持するしないに関わらず反応していることが分かりました。

こうしたAIPやF5のニューロンをカノニカルニューロンと言います。

カノニカルニューロンは、物体を把持するしないに関わらず反応し、多くは特定の大きさ、形、傾きの物体が提示されたときに反応します。

このカノニカルニューロンを用いた運動モデルでは、動作に役立つ視覚刺激が入ると、視覚前野で物体の詳細な特徴が構成され、それに基づきAIPの視覚優位型ニューロンと視覚運動型ニューロンが反応します。

その情報がF5のニューロンへと送られると、F5は得られた情報を適当な動作へと変換します。

こうして物体が動作になります。

さらに現実的なモデルでは、視覚情報よりも、物体の用途と操作する個体の意図の影響を強く受けるとされています。

例えば、コーヒーカップには飲み口、持ち手、本体があり、飲む際には持ち手を持ちます。

しかし、カップをどこかにどけようとするときや人に渡そうとするときは本体を持つことが多いでしょう。

これはコーヒーカップが持つ用途と操作する個体の意図によって決定されているというわけです。

視覚とこうした情報を用いることで特定のアフォーダンスが選択されるのです。

ではまた。

コメントは利用できません。

ピックアップ記事

  1. 2017-9-22

    リュックサックによる腰椎への圧縮軽減

    リュックサックはバッグとしての優れた役割もさることながら、腰椎への負荷軽減ギアとしても効果を発揮しま…
  2. 2017-9-5

    筋線維の形態的特徴について

    筋の形態は、張力発生能力、可動域、短縮速度に著しい影響を及ぼします。機能に影響を及ぼす形態的…
  3. 2017-8-11

    アフォーダンスとカノニカルニューロン

    随意的な動作は、中枢で生じた運動の意図が顕在化したものであり、「目的」はそれを達成するための筋道を決…
  4. 2017-7-19

    筋の拮抗的・共同的中和

    運動を円滑に遂行するために骨格筋はそれぞれ主動作筋、共同筋、拮抗筋と役割を持ちます。一般には…
  5. 2017-7-18

    クレンチング(食いしばり)と運動の関係

    クレンチングとは、無意識的に上下の歯を強く噛みしめる動作をいいます。習慣化されたものはブラキ…

FACEBOOKもチェック!

注目TOPIC

  1. 2017-2-4

    ケトルベルで筋肉のバランスを整える

    ケトルベルはダンベルやバーベルとは違い重量が一方向に偏っています。この特徴により、身体に高負…
  2. 2015-10-22

    原始反射という運動構築の資材

    膝蓋腱を叩くと、反射的な膝関節の動きが見られます。他にも、熱いストーブに触れると敏速な反射的な四…
  3. 2014-10-21

    体幹におけるローカル筋とグローバル筋

    本日は体幹筋について考えてみましょう!「体幹は大事」当たり前のように使われるかもしれ…
  4. 2017-1-25

    メカニカルストレス

    メカニカルストレスとは、「力学的ストレス」のことで、何かを持ち上げたり引っ張ったりするときに筋肉や腱…
  5. 2015-2-15

    サルコペニア対策は大丈夫?

    今日は加齢によって起こる「サルコペニア(加齢性筋萎縮症)」という問題について触れていきます。…
ページ上部へ戻る