筋肥大とパフォーマンスのジレンマ

アスリートの肉体改造は、高いパフォーマンス性を生み出しますが、時として「あれは失敗だった」と言われることがあります。

筋肉をつけすぎると身体が重くなる、動きが鈍くなるといった通説は、こうした結果の積み重ねからきていることでしょう。

しかし、筋の発揮能力はサイズによって決まることも事実で、同じ運動スキルを持っているなら筋が大きいほどパフォーマンスが上がるはずです。

ただそう簡単にはいかないのも事実です。

まずは筋線維の構成要素から考えてみましょう。

筋線維は筋原線維の集合からなり、筋原線維はアクチンやミオシンなどの収縮タンパク質を含むサルコメアの集合からなります。

ここで考えるべきポイントが筋を構成するタンパク質の全てが収縮に働くわけではないということです。

筋原線維を構成するタンパク質には、収縮タンパク質の他に調節タンパク質、構造タンパク質とがあります。

つまり筋肥大には、これら他の構成要素の肥大も含まれており、筋力そのものの発揮能力は高くても、単位面積あたりのパワー発揮はむしろ低下することがあるというわけです。

したがって、単純に筋力のみで左右される競技では有利であるものの、パワーを求められる競技ではデメリットになるかもしれません。

次に、四肢の慣性モーメントについて考えてみましょう。

慣性モーメントとは回転のしにくさであり、これが大きいほど回転するために大きな力を必要とします。

フィギュアスケートでスピンをする際、腕を折りたたむのもこれが理由です。

筋の肥大は関節への慣性モーメントの増大も伴うため、鍛える筋を考える必要があります。

短距離走選手や競走馬を見てみると分かりやすいかもしれません。

彼らは臀部や大腿部に大きな筋を持っているにも関わらず、末端はそれほど太くありません。

つまり末端に行くほど細くなるという特徴を持っています。

末端に余分な重さがないために、慣性モーメントは小さくなり、関節を、そして身体を動かす効率が高まるわけです。

強い推進力を生む筋を持ちつつ、より回転させる構造を作るわけですね。

とはいえ、末端が細ければいいというわけでもなく、適切なバランスを考えなければなりません。

関連記事

コメントは利用できません。

ピックアップ記事

  1. 2017-9-22

    リュックサックによる腰椎への圧縮軽減

    リュックサックはバッグとしての優れた役割もさることながら、腰椎への負荷軽減ギアとしても効果を発揮しま…
  2. 2017-9-5

    筋線維の形態的特徴について

    筋の形態は、張力発生能力、可動域、短縮速度に著しい影響を及ぼします。機能に影響を及ぼす形態的…
  3. 2017-8-11

    アフォーダンスとカノニカルニューロン

    随意的な動作は、中枢で生じた運動の意図が顕在化したものであり、「目的」はそれを達成するための筋道を決…
  4. 2017-7-19

    筋の拮抗的・共同的中和

    運動を円滑に遂行するために骨格筋はそれぞれ主動作筋、共同筋、拮抗筋と役割を持ちます。一般には…
  5. 2017-7-6

    鼠径部痛と内転筋損傷と恥骨炎

    鼠径部痛はスポーツ選手がよく訴える痛みの1つです。これらの痛みを訴える選手は、内転筋群の過緊…

FACEBOOKもチェック!

注目TOPIC

  1. 2015-6-27

    脂肪酸は脳の栄養である。

    ヒトの必須脂肪酸は、リノール酸に代表されるω-6脂肪酸とα-リノレン酸に代表されるω-3脂肪酸になり…
  2. 2017-3-20

    女性の骨と運動

    女性ホルモンの代表であるエストロゲンは、骨代謝に関わるとされており、骨芽細胞の働きを促進して、破骨細…
  3. 2015-3-19

    脂肪とは何か?

    健康面でも美容面でも「脂肪」という名前が出ていますが、そもそも脂肪とはなんでしょうか。お腹の…
  4. 2015-11-16

    運動後の筋力変化

    種々のタイプの運動後に筋力が変化することはどこでも記載されているように周知の事実です。また、神経…
  5. 2017-2-13

    覚えておきたい法則(原則)

    筋力トレーニングをするにあたって覚えておきたい3つの法則があります。1つ目は、「ルーの法則」…
ページ上部へ戻る