肩甲胸郭関節と静的安定性

通常、腕を体側に垂らして立位をとったとき、上腕骨頭は関節窩に対して安定しています。

この安定性は安静時に存在するものなので静的であると表現することができます。

肩甲上腕関節のこの静的安定性を制御しているメカニズムの1つは傾斜面上でも動かないボールの例えられます。

安静時、関節包の上部構造組織により上腕骨頭へは主たる靭帯支持が提供されています。

これらの構造には、上関節包靱帯、烏口上腕靭帯、それに棘上筋腱が含まれます。

この関節包による力のベクトルと重力によって生じる力のベクトルが組み合わさって関節窩表面に対する直角方向の圧迫固定力が生じます。

圧迫力は、上腕骨頭をしっかりと関節窩に押し付け、その結果上腕骨が下にずり落ちるのを防ぎます。

このとき、関節窩の傾斜面もまた腕の重量の一部を支持する棚の役割を担っています。

筋電図データによると、棘上筋とごく一部分の三角筋後部線維が、関節包上部の力がつくるベクトルとほぼ平行して働く自動的な力を発生することで肩甲上腕関節に二次的な静的安定力を提供することが判明しています。

例えば、腰のあたりに重りを手でもってぶら下げるような場合、この二次的な支持が不可欠となります。

また、二頭筋や三頭筋、三角筋のように垂直方向に走行する筋はこの静的安定性にはあまり寄与せず、むしろ下方牽引力を腕に作用させると考えられています。

静的なロッキング機構の1つの重要な要素は関節窩がやや上方に回旋するように保持する肩甲胸郭部の姿勢にあるとされています。

慢性的に肩甲骨が下方回旋位をとった姿勢は不良姿勢や僧帽筋上部線維のような特定の筋の麻痺や弱化に二次的に起因するものが多く、原因に関わらず、この肩甲骨の上方回旋肢位の喪失によって関節包上部組織構造と重力とがつくる力のベクトル間の角度は増加します。

そのため関節包上部組織構造と重力によって生まれる力のベクトルは、今度より少ない圧迫力を生じます。

重力は上腕骨を関節窩の表面から下方に引っ張ります。

この状態が長い期間に及んだり、もし外科的手段による支持を欠く場合には、結果として下方への牽引力は関節包上部構造組織の破綻をきたすようになります。

したがって不適切な支持の状況下にある上腕骨頭は、結果的に関節窩からの下方亜脱臼を招きます。

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