到達運動と空間マップ

通常、リーチ運動、つまり到達運動の計画は、空間における物体の位置を、手を物体と接触させる腕の運動へと変換させる神経過程として定義されます。

これまで神経科学では、空間という全方位に対する連続的な広がりにおいて、その内部で物体とヒトとが相対的に位置づけられるという捉え方をされていました。

それによれば、我々が体験する空間に対応する神経系は、さまざまな感覚入力によって構成される頭頂葉におけるマップであるとされています。

この多種感覚を統一した、いわば外界の神経系のコピーは、物体に対して行動するために必要な情報をすべて提供し、この情報は、目、腕、手を含む効果器を制御する、さまざまな運動関連回路によって共有されていると仮定されています。

これとは別の見解として、さまざまな空間マップが存在し、それぞれは異なる効果器と関連し、特定の必要性に適応しているとする考え方があります。

これらの空間表象は、個人が自らを取り巻く環境と相互作用を行うために、特定の効果器の性質によって決定される一連の運動を定義する際に生み出されます。

例えば、げっ歯類は、海馬とその周囲の領域に、自らの現在の位置と運動の方向性を表す空間位置マップを持ちます。

このような仮説は、空間に関する直感的な感覚の少なくとも一部は、外界と我々の運動系の相互作用から生じるものであるということを示唆しています。

近年の研究結果は、頭頂皮質における単一の空間表象の概念を支持するものではありません。

その理由として、第1に、頭頂皮質は、並行して働く一連の領域として組織されているということ、

第2に、近空間もしくは身体周囲空間、つまり個人の手が届く範囲の空間は、遠方空間を表す領域とは別の領域に符号化されているということ、

第3に、空間符号化に関連する頭頂葉と前頭葉におけるニューロンの機能特性は、目と腕において異なるように、制御される身体の部分に依存して変換するということが挙げられます。

これらの結果が支持するものは以下のようなものになります。

我々には、さまざまな空間マップが存在し、あるものは頭頂皮質に、その他は前頭皮質に位置します。

それらの性質は、さまざまな効果器の運動の必要性に応じて調整されています。

さらに、それぞれの皮質領域における空間マップは、周囲の空間に忠実に一対一で対応した空間表現といった、通常の意味における地図ではなく、静止した、あるいは運動している物体と相互作用するために必要な運動の必要性に応じて拡張したり縮小したりする動的なマップといえます。

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