前頭前野の障害とPhineas Gageの症例

われわれが日常生活で行うことの多くは、目的を記憶し、企図したように行動する能力に依存しています。

企図は、特定の行動に関するものであることも一般的な行動に関するものもあり、簡単な暗算である場合も将来設計に関するものである場合もあります。

行動の実行制御の基礎となる精神過程は多岐に渡っており、一見、脳の1つの領域がそのすべてを担うことなど出来ないように思えます。

しかし驚くべきことに、大脳皮質の1つの大きな領域である前頭前野は、こうしたさまざまな形の実行制御に関与しているのです。

前葉前夜に限局した損傷をもつ患者は、通常は知覚能力も運動行動も正常であり、知能検査の成績も正常であるかもしれません。

しかし、彼らは日常生活に必要な活動がうまくできません。

なぜなら彼らは集中力を欠いており、計画を実行することができないからです。

こうした症例を最初に明確に記載したのは医師のJohn Harlowで1868年のことでした。

その患者は、恐らくこうした患者のなかで恐らく最も有名であろうPhineas Gageです。

1848年、鉄道建設現場での爆破の準備のため穴に爆薬を詰めているときに、彼は不注意にも作業から目を離しました。

すると、彼が火薬を充填させるために使っていた鉄の塞ぎ棒が岩に当たり、爆薬が暴発しました。

爆発により、長さ1m、重さ6kgの鉄棒がGageのちょうど左目の下から突き刺さり、左前頭葉を貫通して頭部を通り抜けたのです。

信じられないことですが、その事故後、Gageは牛が引く荷車まで運ばれ、まっすぐな姿勢で座り、近くのホテルまで移動し、そして長い階段を自ら歩いて登り、ホテルの中に入っていったのです。

その後、Harlowにより手当が施されましたが、鉄棒はかなりの部分の頭蓋骨と左前頭葉を破壊しており、大量の出血を引き起こしていました。

頭を通った穴は直径9cm以上であったいいます。

その1ヶ月後ひどい感染症を負ったものの、日常生活が送れるほどに回復しました。

Harlowはその後もGageの記録を取り続け、そしてそれを1868年に鉄棒の頭部貫通からの回復と題して発表しました。

そこには事故以前、「そつがなく、頭の切れる仕事人であり、非常に精力的で、あらゆる計画を忍耐強く遂行する人物」であったGageが、すっかり別人に変わってしまい、「落ち着きがなく、不真面目で、時にすごくワガママに振る舞い、自分の希望と反するような束縛や忠告に我慢できず、時には手に負えないくらい頑固になった」と記されています。

さらに、将来の事業計画をあれこれ考えるものの、決定したそばからそれを破棄して新たな計画に変えてしまうなど、まるっきり別人となってしまいました。

このPhineas Gageのように、前頭前野を障害された者は、計画を実行することが困難になります。

また、性格の変化もあり、前頭前野損傷後の情動的傾向は、典型的には、平坦さ、浅薄さ、無関心を特徴とします。

さらに、文学や音楽鑑賞力の喪失、他人の感情への鈍感さ、自分の行動がもたらす金銭的結果への無関心などの形をとることもあります。

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