感覚と平衡と定位

姿勢制御系は、環境や運動目標の変化に適応できるように異なる感覚の相対的な感受性、すなわち重み付けを変化させることが出来なければなりません。

頑丈で安定した支持面の上にいる被験者は、姿勢定位を維持するために、主として体性感覚情報に頼る傾向があります。

支持面が不安定なときには前庭感覚情報と視覚情報への依存が強くなります。

しかし、支持面が不安定な場合でも、安定した物体に指先で軽く触れるほうが、視覚に頼るよりも効果的に姿勢定位や平衡を維持することができます。

スキーで滑降しているときや船上で看板から船室に下りて行くときのように、視覚情報や体性感覚情報があいまいなときや欠如しているときには、前庭感覚情報は特に重要となります。

各感覚系への重み付けは、課題の種類や環境の特徴によって変化します。

この変化は、目隠しをした被験者を踏み台の上に静止起立させ、踏み台を最大8°までの異なる振幅でゆっくりと傾けていく実験により実証することができます。

2°以下の傾きでは、すべての被験者が踏み台と一緒に傾きました。

これは、被験者が支持面に対して身体を定位するのに体性感覚情報を用いていることを示唆します。

踏み台の傾きが大きくなると、健常被験者は、あたかも前庭感覚情報の依存を強めるかのように、支持面よりも鉛直線に対して、傾きを小さくし、姿勢定位を保持しました。

対照的に、前庭感覚機能を喪失した被験者は、踏み台とともに傾いていき、転倒してしまいます。

この挙動は、踏み台の急激な傾きに対する前庭感覚障害患者の自動的姿勢反応が不適切であることと一致します。

これらの研究は、動いている、あるいは不安定な床面の上でヒトが起立しているときには前庭感覚情報や視覚情報の重み付けが大きくなり、体性感覚情報の重み付けが小さくなることを示唆します。

いずれの感覚も、姿勢を補助する条件や遂行する運動行動に依存して、特定の時点で主導的な役割を演じる可能性があると考えられます。

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