食欲とグルコスタティックセオリー(糖定常説)

1955年、アメリカの科学者Jean Mayerは、視床下部には血中のグルコースの濃度を検知するニューロンが存在し、グルコース濃度が上昇すると摂食中枢が抑制され、満腹中枢を刺激されるのではないかとする「グルコスタティックセオリー」を提唱しました。

グルコース濃度が低下すると、逆のことが起こり、空腹感を感じるとともに摂食行動が惹起されるというわけです。

この説によれば、全身のグルコース濃度が低下すれば、血糖値も低下し、それがニューロンに影響して食欲を感じさせるということになります。

この説は、私たちが日常経験している満腹感や空腹感を上手く説明できるので、広く受け入れられていきました。

つまり食事を摂れば、すぐに血糖値が上がり、それが脳内のグルコース濃度の上昇に結びつき、視床下部のニューロンの活動に影響を与えて満腹感を惹起させます。

逆に空腹感は、血糖値が下がったことを脳が感知して惹起されるということになります。

1961年に、有名なインドの生理学者B. K. Anandはこの説をさらに詳細に定義して、血中グルコース濃度が上昇すると、満腹中枢のニューロン活動が促進され、摂食中枢のニューロン活動は低下するのではないかと考えました。

血中のグルコース濃度が情報として脳に伝わり、それによって脳は全身のエネルギー状態を判断して、それに応じて食欲をコントロールしているというわけです。

しかし、この時点では血糖値、つまりグルコースを感知するニューロンが実在するかどうかは分かっていませんでした。

1969年、大村裕博士らは、グルコースによって興奮するニューロンが腹内側核に、またグルコースによって抑制されるニューロンが視床下部外側野に多く存在することを証明しました。

さらに、これらのニューロンは脂肪酸によっても影響を受けることが分かりました。

グルコースによって興奮するグルコース受容ニューロンは脂肪酸によって活動が減り、グルコースによって抑制されるグルコース感受性ニューロンは脂肪酸によって活動が増えたのです。

脂肪酸は中性脂肪が分解されて、血中に放出されたものです。

空腹時には、血糖値が下がることで、インスリンの濃度も下がります。

インスリン濃度が下がると、脂肪酸が脂肪細胞から放出されて血中の脂肪酸濃度が上がります。

したがって、空腹時には、血糖値が下がり、脂肪酸が増えることで摂食中枢のニューロンが活動を上げ、満腹中枢の活動を低下させると考えられました。

食欲に関してはさまざまな研究がされており、この他にも、デュアルコントロールセオリー(二重中枢説)、リポスタティックセオリー(脂肪定常説)などがあります。

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