脳神経の可塑性と4原則

我々は絶えず新たな環境に遭遇していて、脳の中では絶えず新しい神経回路網が形成され、必要のなくなった神経同路の機能は失われていくようになっています。
ある研究論文では、神経可塑性を「新しい経験を経て神経細胞の活動が変化し、新たな神経細胞間のネットワークが形成され、そのネットワークの機能が変化すること」と定義しています。
またこの神経可塑性を考える上で、Hebbが提唱した重要な原則があります。
それは
1.Neurons thαt fire together wire together
2.Neurons thαt flre apart wire apαrt
3.Use it or lose it

即ち、同期して活動する神経細胞間には、それが離れた脳領域に存在しても神経回路が生成され、反復して頻繁に使用される神経回路網の機能は強化され、使用しない神経回路網の機能は失われるということです。
ところが、自らを取り巻く空間的・社会的環境が変化する場合や、筋骨格系の一部の機能が障害される際には、脳に流入する感覚情報が大きく変化することとなります。
そして、これに適応するためには、上記原則に基づいて環境に適応するための新たな神経回路網が形成される必要があり、そこには新たな機能が付与されることとなります。

一方で、使用されなくなった神経回路網の機能は失われていくことになります。
神経回路網の発達・形成に閧してはノーベル賞受賞者であるEdelmanが提唱したオペレータ仮説が重要であるとされています。
これは、環境に適応して発達を遂げてきた脳の神経回路網は「顕著な活動を持つ神経細胞群が選択されることにより発達を遂げる」という作業仮説です。
したがって可塑性の獲得には、標的とする神経回路網とこれを構成する神経細胞群の活動をどのように上昇させるのかを考えることが大きなポイントとなります。

また、可塑性は脳に損傷を負った後の脳機能の回復や再獲得に非常に重要であるのは言うまでもありません。
J・Grahamは、神経可塑性の仕組みを次の4種類に分類しています。

1)Map expansion
頻繁に使用する機能に関与する脳の領域は拡大するというもの。
たとえば、先天的な視覚障者では、本来視覚野であるべき後頭葉の皮質領域にまで聴覚野が拡大している場合があると報告しています。
要するに、身体に関する脳のマップは絶えず変化しているということを示唆しています。

2)Sensory reassignment
ある領域への感覚入力が遮断されると、その領域は新たな別の感覚入力を受容するようになるというもの。
たとえば、事故や手術により手を切断した後に一次体性感覚野の手領域には感覚入力が遮断されるますが、一方で顔や腕からの感覚を受容するようになります。
Ramachandranは、手の切断によって、本来は「手の感覚野」であった皮質領域は縮小、一方で隣接する顔や腕の領域が拡大する(map expansion ) ことを示しています。
この結果として、顔や腕に消失した手の感覚受容野が出現することを証明しています。

3)Compensatory masquerade
損傷した脳領域に代わって、別な領域がその機能を代償あるいは代替する仕組み。
古くから想定されていた典型的な神経可塑性のメカニズムのこと。

4)Mirror region takeover
一側の大脳半球の部分の機能が喪失すると、対側半球の対応する領域が喪失した脳機能を代償獲得すること。
Isaらは、precision gripを学習したサルの外側皮質脊髄路を頸髄レベルで切断し、この精緻運動の回復過程を観察したところ、切断100日後には精緻運動は回復したが、対側の運動皮質活動は低下しており、同側の運動皮質活動が上昇していたと報告しています。
薬物を注入して同側運動皮質活動を低下させると、回復した運動が消失したことから、対側の運動皮質に代わって同側の運動皮質が精緻運動の機能を代償したことになります。
これは、Mirror region takeover、ならびにCompensatory masqueradeの代表例になります。

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