筋収縮のメカニズムは、1954年に提唱された滑走説が有力とされています。

滑走説を簡単に説明すると、ミオシンという自動車のエンジンがガソリンの代わりにATPを使って、アクチンの道路を走るというものです。

そのため、ミオシンはモータータンパクとも呼ばれています。

ミオシンとアクチンはクロスブリッジを形成し、ミオシン頭部の首振り運動、すなわちクロスブリッジの角度変化によって筋収縮を生み出します。

このときミオシンアクチン間でオールを漕ぐような形で筋収縮が行われています。

しかし、ミオシン1分子の動きを捉えた1分子計測では、ミオシンがアクチン分子サイズである5.5nmを基本単位としたステップ運動を複数回行っていたという結果があり、これが前方向だけではなく、後ろ方向にも発現していたという報告がありました。

これは必ずしも角度変化のみが収縮を生み出すわけではないということと、一方向性ではないということを示唆する結果となりました。

こういった従来の考え方と違った報告が出る一方で、筋収縮に働くミオシンではありませんが、細胞内で小胞輸送を行うミオシンⅤを対象にした研究では、ミオシンⅤが頭部を交互にステップさせて、まるでヒトが歩くような運動を行うことが明らかにされました。

さらにミオシンⅤがステップするたびにミオシン頭部の移行部であるレバーアームの角度が90°前方に回転しており、首振り運動が行われているということが明らかになっています。

しかし、このレバーアームの動きだけでミオシンの動きを完結させるには、少し説得力に欠けており、そのため、ブラウニアンサーチアンドキャッチやそれを抽象的に捉えたストレインセンサー機構といった理論もその一端を担うと言われています。

これらは、ミオシンにブラウン運動が加わっているという仮説です。

ブラウン運動は水中の微粒子の不規則な運動のことで、水に垂らしたインクが広がっていくのもこの不規則な運動の結果です。

歩行運動中のミオシン頭部はレバーアームの角度変化によって前方に押し出されますが、前方のアクチンに着地するまではランダムなブラウン運動にさらされます。

着地点になるアクチン分子の候補は1個だけではなく、複数個存在するため、確実に前方のアクチンに着地しないかぎりは歩行運動が成立せずに前に進むことはできません。

そこでミオシンは、ブラウン運動で偶然前方のアクチンに結合した場合にのみ強く結合しロックされる仕組みになっており、後方アクチンに結合した場合には、強く結合されずアクチンから解離するようになっているというのが、ブラウニアンサーチアンドキャッチの理論です。

ストレインセンサー機構は、ミオシン自身が前後方向を知っており、ミオシン頭部がアクチンに結合したときに加えられる張力の強さと向きが前後方向を判断しているというものです。

後方に引っ張られればミオシンは前方にいることを知り、前方に引っ張られれば後方にいることを知ることになります。

これら、レバーアームとブラウン運動の筋収縮に関与する比率を調べた研究では、低負荷ではレバーアームによって十分な仕事が行われており、後負荷では、ブラウニアンサーチアンドキャッチで全体の仕事の80%以上をまかなっていることが分かりました。

すなわち、ミオシン分子による力発生の大部分は、ブラウン運動に起因していることになります。

ブラウン運動は自然発生的なものでありエネルギーを必要としないため、非常に省エネ化されている仕組みだといえます。

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