リンパ系・リンパ循環の意義

リンパ循環の特性を考察するために以下順を追ってリンパ系・リンパ循環の意義を述べる。

(1)血管系から漏出した血漿成分の循環血液中への回収
血漿と組織液との間には微小循環系の血管壁を介してスターリングの仮説に従った水の移動が生じている。
また、主に細静脈壁を介して血漿タンパクの漏出が生ずる。

ここで、組織間隙からリンパ系により1日に回収されるアルブミンの量はほぼ循環血液中に含まれているものの半分に相当する。
血管内の静水圧・血漿タンパク濃度はともに組織間隙におけるものよりも高いので、組織間隙へと漏出した血漿タンパクは直接血漿へと移動することは出来ない。
なぜならば,たとえ膠質浸透圧差によって水は血管内へと移動することが出来ても、膠質浸透圧を生じている血漿タンパクの拡散の方向は外向きになっているからである。
そこで、リンパ管のポンプ作用によって組織間隙の血漿タンパクを回収する必要が生ずる。
それゆえ、リンパ系は組織液の汲み上げを介して細胞周囲環境の恒常性、循環血漿量の維持に役立っているといえる。

(2)消化管から吸収された水・電解質・栄養素の移送
小腸の絨毛には中心リンパ管(中心乳糜腔)と呼ばれるリンパ管の起始部が存在し、消化吸収に際して、特にカイロミクロン(リポタンパク質粒子)の形での脂溶性物質転送を行っている。
さらにこれら脂肪の吸収は、消化管免疫と密接にかかわっていることが知られている。

(3)細胞から放出・分泌されたホルモン・酵素等生理活 性物質の移送
内分泌腺には有窓型の毛細血管が存在し、高分子であるホルモンの血漿への移行を容易にする形態をなしている。
一方、これらの臓器においてはリンパ管の発達も認められており、副腎・膵臓・甲状腺・腎臓・小腸からのリンパ液中にはそれぞれコルチゾール・インシュリン・サイロキシン・レニン・アルカリホスファターゼが高濃度含まれている。

(4)高分子物質・粒子状成分の組織間隙からの排除
組織間隙に入った刺青の顔料が所属リンパ節に蓄積されることは古くから知られていた。
リンパ管は、組織間隙を構成している高分子物質であるヒアルロン酸や炭粉等のマイクロ・ナノパーティクル、そして細菌等異物の汲み上げと輸送を行い、これらはリンパ節において処理もしくは蓄積される。
これらの作用により、組織間隙における細胞周囲の微小環境の恒常性が維持される。
(5)抗原・抗体・免疫細胞の移動路・反応の場
血流に乗って全身を循環しているリンパ球は、リンパ節にある高内皮細静脈から血管外へと遊走し、輸入リンパ管より流入してくる抗原呈示細胞との出会いの場が形成される。
これら免疫細胞の動態は種々の接着分子やケモカインによって巧みに調節されている。

(6)生理活性物質の分泌
リンパ管内皮細胞からは一酸化窒素(NO)・プロスタグランジンが、内腔の流れや種々薬物の刺激によって放出される。
この放出された生理活性物質が伴走する血管の緊張性を調節し得ることが知られている。
微小循環系において対向流をなす動脈と静脈は物質・ 熱・情報の交換を行っているといわれているが、リンパ管も伴走する動脈と対向流をなしており、組織の状態に依存した血流の調節を行っているのかもしれない。

(7)病態生理学的意義
リンパ系の異常により浮腫やタンパク漏出性胃腸症が引起される。
四肢のリンパ浮腫は主に乳癌や子宮癌における腋窩や骨盤内のリンパ節郭清・放射線照射に引き続いて生ずる。
リンパ浮腫を生じた部位は蜂窩織炎を生じやすくなり、最終的には象皮病の状態を呈する。
さらに、生命に危険を生ずる浮腫としては脳ヘルニアを引き起こす脳浮腫、呼吸不全をもたらす喉頭浮腫・肺水腫、心タンポナーデを生ずる過剰な心嚢水の貯留がある。
心筋の浮腫も収縮と拡張と両方の障害をもたらす。
リンパ流の途絶を生ずるリンパ管の閉塞に起因するリンパ浮腫に対して、うっ血性心不全や肝硬変に伴う浮腫においては、逆に著明なリンパ流量の増加がみられる。
リンパ系は腫瘍の転移経路としても知られている。
腫瘍を有する患者のQOLを向上させるため、センチネルリンパ節の正確な検索、より有効なリンパ節転移の診断治療法の開発は喫緊の課題である。

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